クレーの作品群で最も有名であり、最も意味深い天使シリーズ、その背景には何があったのでしょうか

クレーの天使

クレーの作品群のなかでも、最も有名なのは「天使シリーズ」といわれる、一連の天使画です。

私も初めてクレーと出会ったのは、クレーの天使シリーズの「忘れっぽい天使」を見た時だったと記憶してます。

なんてやさしい天使の顔、シンプルで細いラインで描かれたこの天使の絵にすっかり魅了されてしまいました、 そこで、「クレーの天使」という書籍を購入しました

この本はクレーの天使の絵に谷川俊太郎の詩が添えられていて、2人の時間を越えたコラージュが実現されています。

クレーの天使シリーズは、殆どの作品が素描画で表現されています。  何本かの線だけで描かれた作品、一見すると子供のいたずら書きのようなその絵に惹かれていった。

いったいこのこの天使シリーズは何を表現しているのだろう。  とても、気まぐれで天使を描いたとは思えませんでした。

背景

まず、この天使シリーズが描かれた時期の背景をみてみましょう。

この天使シリーズが描かれた年代は1939年〜1940年の2年間に集中しています。  この2年間とは、クレーにとっての最後の2年間です。

さてクレーにとってこの2年間とは、どういう意味があったのでしょう。

クレーの晩年、それはとても幸福といえる状況ではありませんでした。  1933年にナチスから退廃芸術のレッテルを貼られ、職を失い生まれ故郷であるスイスに疎開しています。

しかし、生まれ故郷であるスイスでの国籍を取ることも容易ではなく、結局、完全なスイス国籍を取得する直前亡くなっています。  1936年、クレーは”進行性皮膚硬化症”と診断され、この1936年にはクレーは殆ど作品を残していません。

このことがクレーにとってこの病気がどんなにショックであったか物語っていると思います。

天使とは

クレーにとって天使とはいったいどういう意味を持っていたのでしょうか。

天使とは、天の使い、死の予感から天からのお迎え、ちょっとニュアンスが違うかもしれませんが死神、 実はそうではないようです。 天使シリーズの絵や題名から、クレーが描いていた天使は天から降りてきた完全な天使ではなく、 生まれる途中、生成される途中の天使だということが分かると思います。

つまり、自己の変容なのです。  人は死ぬ間際にエゴを棄て本当の自分、自分の中の天使に近づき、そして一体となり、その先へ進んでいく そんな感じを受けるのです。

私は日本人ですから、天使という言葉なにか違和感があります。  なので、思い切って仏様と想像してみたら、

「人は死ぬとみな仏様になる」これは、信じるか信じないかは関係なく、私たち日本人の普通の感覚の中で 理解できると思います。

クレーは自分の中の変容を表現したかったのでしょう。 だからといって、死ぬ間際に勝手に、どんどん人間的に成長し、やさしくなり、聞き分けがよくなり、慈愛が膨らみ ということではなく、変容に失敗し、でも変容を望み、上に向かっていこうとする、そんな天使を描きたかったのです。

死の予感

クレーはこの最後の2年間”進行性皮膚硬化症”という病魔と戦いながら、生と死の狭間にいたのでしょう。  迫り来る死への恐怖、残された時間、そして戦争。

何をとっても、クレーにとっては確実なものはなく、不安の中でもがいていたのかもしれません。  最後の2年間クレーは天使を描き続けました。

まるで、変容の苦しみを吐き出すように・・・・

でも、なぜかそんな時期に描かれた天使シリーズの絵には、ユーモアが溢れてます。  その絵をみると「ぷっ」と微笑んでしまう絵なのです。 そして、なぜか、癒されます。

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